読書の技法    佐藤優

 

読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門
佐藤 優
東洋経済新報社
売り上げランキング: 86


佐藤優という人は、独特の頭脳構造を持った人だ。単に頭が良いというだけでない。自分の頭の使い方をよく知っている人だ。本書も、どんな本を読むべきかという論点だけでなく、月に300-500冊を読み込むという習慣をベースに、どんな本をどんな方法で読むと知識が定着しやすいかという論点にも触れており、速読や熟読の具体的な方法にも詳しく言及している。

そして、この「どんな本を、どう読むべきか」という点を重視する姿勢の背景には、読書というインプットの重要性と同じくらい、読書の結果としての情報のアウトプットを重視する筆者の価値観がある。単に本を味わうということではなく、本を読んだ結果得た情報をどう活かすかという点を重視していると言い換えても良い。

本書で特に強く印象に残った点を書き出すと、まず第一に熟読する価値のある本を選ぶためには、ピンと来る本をどんどん「超速読」(一冊を5分で読了)する必要があるという点。そして、超速読をする上では、重要箇所をチェックするために、どうしてもマーカーを引いたり、メモを書き込む必要があるから、こうした無数の本も「買わざるをえない」という点。

確かに役立つかどうか判然としない本を買う出費は痛いが、一晩飲む金額でビジネス書を三冊買えると想定すると、その潜在的価値を考慮すれば、それほど高額の出費と言えないのかもしれない。

また、語学や数学の習得には、「テクネー」という、練習問題を繰り返し解いて、知識を体に覚えさせるような手法(ギリシア語源)が不可欠だという点も、極めて強く印象に残った。

これは学生時代もそうだが、社会人になってからの学び直しにも、テクネーの手法以外に語学や数学をマスターする方法はないと断言されていて、とても強く印象に残った。自分は特に、高校数学に知識の「欠損」があり、財政や投資の話題でついていけないと感じることが時折あったので、数学の学び直しのメドが立った気がした。

佐藤氏は、言わずもがな外務省出身。中央官庁の人々の情報咀嚼能力には、かねてより舌を巻くものがあったが、そのノウハウをここまで具体的に開示してもらえたのは有難い。本書は、単なる読書のテクニックに関する本ではない。

人生は短いから、どの本を読むべきか、そして読むべき本をどういう方法で読んだら、最も効率的・効果的に知識を吸着させることができるか、という人生における時間の有効活用という観点から読書法を論じている。単なるノウハウ本の領域を超えた本である。

 

 

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金持ち父さん 貧乏父さん  ロバート・キヨサキ

 

金持ち父さん貧乏父さん
ロバート キヨサキ シャロン・レクター(公認会計士)
筑摩書房
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アマゾンでこの本の書評を見ると、驚くほど評価が賛否両論に二分している。高く評価している人々は、筆者のキヨサキ氏が主張しているファイナンシャル・インテリジェンス(お金を稼ぎ、本当の資産を作るための知識)の重要性に共鳴しているようだが、評価していない人々は、その拝金主義的な価値観を蔑み、危険視する論調が多い。両方の見方ともに、妥当性があるように感じた。

思うに、この本には正しい読み方というものがあるようだ。この本の冒頭には、狂言回し的に登場する主人公の「少年」が、二人の父親のうちの「金持ち父さん」に、不条理なタダ働きを強いられ、金銭的に搾取される過程を通して、お金を稼ぐことの本当の意味を学んでいく場面が出てくる。

金持ち父さんは、教師が学校で教えるように、少年にお金を稼ぐことの意味を優しく教えてあげても良かったのだが、意図的に大人の上司が部下に仕事を叩きこむような少し不条理な方法を選択した。その方が教えが体に叩き込まれることを知って、相手が子どもでも、あえてそうしたのだった。

実は、この本の読み方も同様で、学校で先生に教えてもらうように「子どもの読み方」をしては、本質が伝わらないような仕掛けがしてあるようだ。

拝金主義的な記述や、眉唾もののエピソードも満載なのだが、そういうところを上手にスルーして、自分にとって大事な部分だけ要領よく抜き取る「大人の読み方」が求められているようだ。そういう意味で、本書は絵本のような装丁をしているが、大人のための本という感じがする。

本書で最も印象的な部分は、筆者が展開する資産と負債に関する独自の持論だ。筆者は、「資産は自分のポケットにお金を入れてくれるもの、負債はポケットからお金を持っていくもの」と定義し、住宅ローンでお金が出ていく持ち家は負債で、他人に貸しているマンションの部屋は資産に当たると説く。

この資産と負債の論点は、他にもいろいろな事例を出して様々な説明が展開されており、ここは筆者の最も伝えたいポイントの一つなのではないかと思った。

 

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体系的に学ぶモバイル通信   神崎洋治 西井美鷹

体系的に学ぶモバイル通信
神崎洋治 西井美鷹
日経BP社
売り上げランキング: 115019


結論を先に書くと、モバイル通信の仕組みを文字通り、基礎から実用面に至るまで、懇切丁寧に「体系的」に説明してくれており、とても分かりやすい。ちょっと詳しすぎるところもあるが、これだけモバイル通信の状況が激動している現在では、このくらい詳しいくらいが丁度よいかも知れない。携帯やスマホを買い換えるとき、パソコンを買い換えるとき、WI-FI環境を導入する時、百科事典的に使うこともできる。

自分の携帯利用歴としては、もともと十年近くauユーザーだったのだが、昨年ソフトバンクのiPhoneに乗り換えた。そこでびっくりしたのが、ソフトバンクの電波の弱さ。メールがちゃんとリアルタイムに着信しない、電話も途中で切れるなど、異常な事態が続いたのでいろいろ調べてみたのだが、iPhoneユーザーでこのような悩みを持つ人は少なくないということで、二度びっくり。

いろいろあって、3Gではなく、WI-FIベースで利用すると、多少問題が解決することに気付いたが、こうしたことをあれこれ調べる過程で出会ったのが本書。

モバイル通信の分野は、今後もどんどん変化し続けるから、自分自身が一定の基礎知識を持っておくことは、スマホやパソコンの通信環境を常に最適化しておく上で必須のことだろう。そして、そうした自分のモバイル通信環境を最適化しておけるかどうかは、仕事や遊びの可能性、ひいては非常時の対応さえも左右する結構大きな問題だという気がする。

 

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官僚に学ぶ仕事術 ~最小のインプットで最良のアウトプットを実現する霞が関流テクニック  久保田 崇


著者は、内閣府のキャリア官僚。官僚というと、世間的に悪いイメージがあると思うが、実際には真面目で良心的な人が多いのではないだろうか。

自分は数年前、霞が関のキャリア官僚の人たちと共に働く機会があったのだが、その時の印象は、彼らが非常に勤勉だということ(長時間、集中して働いている)、常に話の核心に達するスピードが速い(≒地頭が良い)という印象を持った。読後感として、この本の著者も、そんな一人なのではないかと感じた。

本書にも書かれていることだが、官僚の仕事では、文書作成に関する仕事の比重が極めて高い。それも、率直に言ってあまり専門知識のない政治家などを相手に、いかに短時間で正確に事実を把握させるかといった目的を持った文書を作る機会が多いので、とにかくコンパクトで分かりやすい文書を書くことが要求される。

私の個人的印象でも、官僚の書いた文章は、政治的なバイアスが入っているものもあるが、総じて非常に分かりやすいものが多い気がする(今では、相当量の文書が役所のサイトにもアップされていますね)。はっきり言って、大半の企業の文書よりも質が高く、分かりやすいものが多い。

本書では、こうした分かりやすい文書を作る際のインプットとアウトプットのコツのほか、常に圧倒的な仕事量に追われる霞ヶ関官僚ならではの業務管理の具体的なアイディアも紹介されており、一般のビジネスマンにとっても役に立つ内容になっている。

 

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ウェブ×ソーシャル×アメリカ<全球時代>の構想力  池田純一


非常に不思議な本。ごく簡単にいえば、インターネット、ウェブサイト、ソーシャルメディアというものが、なぜ常にアメリカという国で生まれ、全世界に拡散していくのかという理由を、おもに社会学的見地から解き明かしている。ただし、この論証を行うにあたり、科学技術、歴史、政治、経済、文化など、様々な分野から論点にメスを入れているから、なかなか読み応えがある。

こうしたデジタルのメディアは、様々なデメリットも指摘されるが、情報をより速く、安く、正確に伝達できる点でアナログのメディアを凌ぐことが多いので、今後も市場原理に従って、世の中を席巻していく勢いは止まることはないだろう。

そして、こうしたデジタル・メディアは、社会の形式的な組織や仕組みを超えて、純粋な市場原理に従って希少な情報を流通させていく特質も持っているから、世の中をどんどん自由競争的なフラットな社会に組み替えていく特徴も持っている。

アメリカという国は、もともと独立の動機からして、古いヨーロッパの権威主義的、形式主義的な束縛から解き放たれたいという熱い思いから、政治も経済も徹底的に自由にすることを標榜し、今日にいたるまで民主主義と資本主義の先頭を切ってきた。こういう国から、次々とデジタルメディアが生まれるのは必然だというのが、本書の論点の一つかもしれない。

いま、こうしたデジタル・メディアは、中東の独裁国家を次々と揺さぶっている。こうしたインターネット技術を通して独裁国家が崩壊する可能性については、もともと独裁国家ソ連の出身で、グーグルの創始者であるサーゲイ・ブリンやラリー・ペイジもかなり早くから予見していた。

東西冷戦における東側諸国は、市場(おカネ)の力で次々と西側の体制に切り替わっていったが、いまやテクノロジーの力で、旧態依然とした独裁国家が次々と倒れている。

こうした動きは、自由を渇望する人間の根源的な本能に根ざした動きだから、簡単には止まらないだろう。いままで、インターネットは世の中を変えたとか、何となく言われてきたが、本当にひとつの国の体制までひっくり返してしまうほどの時代に突入した。

本書を読んで、その影響力の大きさに思いを馳せた。非常に視野の広い本で、いろいろなことを考えさせられます。

 

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