月別アーカイブ: 2009年4月

越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文  越前敏弥

越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 (ディスカヴァー携書)
越前 敏弥
ディスカヴァー・トゥエンティワン
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仕事で英語を使っているので、こういう本はよく買う。本書は、様々な誤訳のなかも、英語表現や語彙から生じる誤訳ではなく、文法解釈から生じる誤訳を、特に詳しく扱っている。

まず思ったのは、本書は中級者・上級者向けということ。理由は、読者が中学レベルの英文法をマスターしていることを前提にしているから。

「中学レベルの英文法」なんてバカにするなと言われてしまいそうだが、中学レベルというのは高校受験レベルのことである。高校受験する子どもの勉強を教えた経験のある大人なら知っていると思うが、これが結構難しい…。自分もさんざん習ったのだが、忘れてしまっているのだ。

しかし、中学レベルの文法をクリアしていれば、本書の内容がいかに素晴らしいかがよく分かる。本屋でも、ずっと平積みにされているが、その理由がよく分かる。たぶん、日常的に仕事で英語を使わなければならないような人にとっては、とくに重宝するだろう。

誤訳の事例も、これだと間違えてしまうだろうと思わされるようなケースばかり。また、解説の仕方も分かりやすい。横道にそれずに、必要なポイントを分かりやすく説明してくれている。新書なのだが、非常にクオリティが高い。コスト・パフォーマンスが非常に高い良書だと思います。

 

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アダム・スミス-『道徳感情論』と『国富論』の世界  堂目卓生

アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)
堂目 卓生
中央公論新社
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本書は、アダム・スミスの代表作『国富論』と、あまり有名でない『道徳感情論』の二つの著作の意味合い、文脈をブリッジすることを試み、それによってアダム・スミスの人間観、市場観、国家観を鮮やかに描き出すことを主題にしている。

ちなみに、私は両方とも原書を読んでいない。しかし、本書の著者が言いたいことは、ほぼ理解できたように思う。これも、筆者の力量によるものだ。テーマは難解だが、説明の仕方が分かりやすい。

一方、本書で紹介されているスミスの人間観については、やや意外な感じがして驚いた。本書では、スミスは、人間は他人に「同感」する性質を持っており、自分にしてほしいと思うことを他人にしてあげ、自分にしてほしくないことは他人にもしない傾向を持っており、これが社会秩序を形成し、ひいては市場を通じて秩序だった経済発展が達成される、ということを言っている。

従来の類書で展開されるスミスの世界観というのは、人間は利己的な存在である、しかしその利己的な欲求も市場の交換機能というフィルターを通すと、自分の欲求を追求することによって(たとえば金儲け)、他人の欲求を充足する(たとえばサービスの供与)ことが可能となり、すべての人間が自分のことしか考えていないのに、社会全体の経済発展が達成される、というものだったような気がする。― この点において、本書は新しい視点を提供している。

他方、純粋に面白く読み進んだ箇所は、後半の『国富論』の歴史的背景。スミスが『国富論』の執筆を進めていた時期は、アメリカ独立戦争とフランス革命がそれぞれ同時進行していた時期と重なる。そんな背景から、本書は、『国富論』がアメリカ独立戦争に関する英国政府への政策提言としての側面を持っていたことを裏付けている。

この節では、英国が米植民地を抱え込んだ場合と、分離独立させた場合の英国社会に対する経済効果のシュミレーションなども紹介されており、とても面白い。スミスが経済理論に関心を持っていたから経済学者となったというよりも、人間と社会に関心を持っていたから経済学者になったのだという想像力も膨らむ。

 

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続 日本人の英語  マーク・ピーターセン

続・日本人の英語 (岩波新書)
マーク ピーターセン
岩波書店
売り上げランキング: 1857


昨日に続き、続編についての所感。冠詞について、改めて丁寧に説明している。しかし、それでも、いやそれだけに冠詞は難しいと感じた。

この冠詞の問題は、著者が改めて懇切丁寧、また極めてロジカルに説明していることからも明らかな通り、著者の説明の仕方に問題があるのではない。そうではなくて、可算・不加算の区別、特定・不特定の区別が、何か普遍的なルールに基づいているのではなく、英米人の思考回路や概念把握の仕方などの「主観」に基づいているから、日本人にとって理解が難しいのだという気がする。

ここには、著者の説明が秀逸であればあるほど(実際に秀逸なのだが)、日本人が英語の冠詞を使いこなすことはとても難しいという事実が浮かび上がってくるパラドックスがある。また同時に、冠詞を間違えて用いると、文全体の意味が変わってしまったり、意味不明の内容になってしまうなど、冠詞の問題がどうでもよい形式的・専門的な問題ではなく、きわめて日常的・実践的な問題だとという点にも気づかされるので、ある意味で英語を使うのが怖くなる側面もある。

しかし同時に希望が持てるのは、著者も指摘している通り、英米人の思考回路を身に付け、英語を英語で考えながら使えるようになれば(この可能性はどの日本人にも拓かれているわけだが)、冠詞の問題は深く考えなくても自由に使いこなせるようになるので、結果的に問題は雨霧消散してしまうという点である。よく考えれば、言語というのは、それぞれの土地で土着的に生成・発展するものなので、言語習得には、その言語の思考回路で、学び、使うという姿勢が欠かせないのは当然だ。

本書では他にも、少し表現を変えるだけで、どれだけニュアンスが変わるかといったポイントを、様々な具体例を出して論じている。ここからは、こうした微妙なニュアンスの違いを理解できるかできないかで、どれほど英語理解の深度に違いが出るかということが分かり、励みになった。

こちらの続編も、繰り返し読んでみたい一冊となりました。

 

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日本人の英語  マーク・ピーターセン

日本人の英語 (岩波新書)
マーク ピーターセン
岩波書店
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英語学習に関する一般書として、ロングセラーにしてベストセラーの一冊。かつて出版直後に購入して読んだが、このたび仕事で必要になったので、家中を探したが見つからず、再購入してもう一度読んでみました。評価が高い理由を、改めて再認識。

とくに有用に感じたのは、冠詞の概念(可算・不加算)、関係代名詞の用法(制限・非制限用法)、前置詞の概念と用法、時制(とくに現在形と進行形の違い)などに関する説明。このへんは、英文の根幹を成すキーポイントだが、時間が経つと忘れてしまいそうなので、しばらくしてからもう一度読み直す必要を感じた。

それにしても、可算名詞と不加算名詞についての説明は、著者が極めて論理的に易しく説明してくれているのだが、どうしても理解が難しい。普遍的なルールで区別が決まっているというよりも、あくまで英米人の主観で区別が決まっている感じがして、日本人にはそのルールの根拠を理解することが、とても難しい。著者の説明は大変優れているのだが、区別の根拠を理解することが、日本人にはとても難しいのだ。

いずれにしろ、アメリカ人のネイティブが、完璧な日本語で、英語のロジックを分かりやすく説いた名著であることには違いない。なんどでも繰り返し読みたい、また読む必要がある、と感じた。

 

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