月別アーカイブ: 2010年1月

ウェブ時代をゆく  梅田望夫

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
梅田 望夫
筑摩書房
売り上げランキング: 5248


ずいぶん売れた本のようである。筆者が、いかに自分の仕事(IT関連)を愛しているかが伝わってくる。IT革命がもたらした現在の潮流が、人を不幸にする可能性よりも、幸福にする可能性に触れ、その根拠も説明している。

インターネットがもたらした情報通信に関する革命的な変化は、グーテンベルグの印刷技術の発明よりも大きい。電話や郵便の発明・普及よりも大きい。そして、これら全てを併せたよりも大きい。

筆者は、今後の社会の変容や、それに併せた人の職業や働き方の変化、また今後の変化の予測にまで言及している。確かにそうなのだろうな、と納得。

しかし、こうした変化の予測は、執筆当時(2007年)での予測であって、実際の変化はもっと大規模に、かつ根本的に、想像を絶するな形で今後展開していくだろう。でもたぶん、そのことも筆者は十分知った上で、私のような素人の読者層に合わせて、理解可能な範囲内で易しく噛み砕いて書いてくれたのだと思う。

 

[`evernote` not found]

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する  佐々木俊尚

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する  文春新書 (501)
佐々木 俊尚
文藝春秋
売り上げランキング: 42585


グーグルや、今のネット社会がどういうものかを、平易に語っている。アマゾンで上位に付けているので読んでみたが、なにぶん約4年前の本である。この本自体に何の罪もないし、出版されて4年後に読んだ私も悪い。しかし、インターネット関連の本の賞味期限は、マックスで1年だと改めて思った。

今や、「インターネットって、すごいですね」という言い方は、すでに死語のような言い方である。「Web 2.0って、すごいですね」という言い方も、ほとんど化石である。そういうことは、もう当たり前であって、世の中はそれを前提に、その前を進んでいる。

今日の夕刊に、グーグルが最高益を出したというニュースが載っていた。もしかしたら、今がグーグルのピークなのかもしれない。そのうち、「グーグルって、すごいですね」などと言っていたら、笑われる時代が来るかもしれない。

そういう意味で、本書で筆者が懸念しているような「グーグルが全てを支配する」ような社会は、この超音速で驀進するオープンなネット社会では実際には起きないだろう。いまの状態が数年前に想像できなかったように、数年後には今は想像できないネット社会が出現し、想像できない期待と懸念が交錯する世の中になっているだろう。

 

[`evernote` not found]

ルワンダ中央銀行総裁日記   服部正也

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)
服部 正也
中央公論新社
売り上げランキング: 41271


本書は1972年に初めて出版され、その後しばらく絶版状態になり、中古市場でプレミアム価格で流通していたが、昨年末になって急に再版されたという「いわくつき」の本である。こういう硬派の本で、しかも途上国をテーマにした作品で、こういう経過を辿る本は珍しいのではないか。実際、読んでみて、プレミアムが付くのは当然と思った。大変面白い本である。

まず、あまり途上国とかにあまり興味がない人でも、海外に興味がある人なら、とても楽しめるという意味で、とても面白い本だ。題名はいかめしいし、ちょっと昔の本だから語り口は硬い。でも、あまり深く考えずに読んでも、筆者の筆力なのか、読んでいてたちまち引き込まれる。

また、筆者はもともと日銀マンで、IMFや世銀にも出向した国際金融のプロ中のプロだから、経済や金融に興味のある人にとっても、とても面白い本だろう。ところどころに、マクロ経済や経済政策に関する実践的なナマの分析が出てきて、これもまた引き込まれる。

さらに、当然途上国問題に興味のある人にとっては、夢中になって読める本であることは間違いない。筆者はエコノミストであるだけに、途上国や、そこに住む人々に対する妙な感傷がない。しかし、人間を、人種や民族、経済状況などで分け隔てすることなく、目の前にいる人を等身大で捉えるフェアな観察眼がある。そして、その徹底した公正さの中に、ルワンダの人々に対する深い愛情があることが、こちらにひしひしと伝わってくるのである。

著者は、独立後間もないルワンダで中央銀行総裁の要職を6年間務め、当時の大変な政治的混乱、経済的貧困の中で、経済政策の立案と執行に辣腕を振るった。そして、この任務を通して、大統領や財務大臣をはじめとする国の指導者、ルワンダ駐在の外国企業や外国商人、ルワンダの商人や農民を相手に、無数の対話と意見交換を重ねてきた。当然、そこから引き出される筆者のルワンダ社会の分析、また途上国社会の分析は、素人目から見てもすこぶる切れ味が良い。

1994年の大虐殺についても、今回の改訂で筆者の補論が付いた。これに対しては、最近の出来事でもあるので、さまざまな書評がネット上にも載っているが、私は個人的に、一般の見方と違ったこういうユニークな分析があってもいいのではないかと思う。

94年の事件に対する大方の見解は、加害者の残虐性を非難する主旨のものが多いが、著者は、長い歴史の中で、ルワンダでは双方の民族が互いに虐殺しあってきた経緯があり、双方ともにそれなりの非があるという大局的な見方をしている。現場を良く知る人は、こういう大局的な見方をすることが多く、一方だけを批判したり、支持することが少ない。筆者の見方も、そういう現場を直接見た人に独特の落ち着いた趣が感じられる。

いずれにしろ、本書は960円なのだが、それ以上の価値があることは疑いない。プレミアムが付いていたのは当然と思わされる濃い内容である。

 

[`evernote` not found]

フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略  クリス・アンダーソン

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
クリス・アンダーソン
日本放送出版協会
売り上げランキング: 495


デジタル化された情報、-文書、本、音楽、テレビ番組、映画など-は、生産(複製)における限界費用がタダに近いので、市場競争にさらされる中で販売価格がどんどん下がり、いずれ無料になる運命にある。それは万有引力の法則のようなもので、逆らっても傷つくだけだ、だからこの傾向を大いに利用すべきというのが本書の論旨。

まさにその通り。異論はない。しかし、このフリーの荒波をうまく乗りこなして儲けることができるのは、フリーの本質、ITの本質を正確に理解している一部の賢い企業、人々だけという気がする。ほかは、フリーの濁流にのまれて消え去るのみなのだろうか。そのくらいフリーの勢いは激しく、速い・・・。

本書の良心的なところは、フリーの驚異的な本質を解き明かすだけでなく、その対応策、つまりフリーを活かして儲ける術も具体的に数多く紹介している点だ。著者のクリス・アンダーソン氏自身は、紙媒体とデジタル媒体の両媒体の専門誌の編集者。評論家のような冷めた立場ではなく、フリーの荒波と毎日戦っている立場から発信しているだけに、リアリティが宿る。

 

[`evernote` not found]