ダイヤモンド社
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これまで日本ヒューレット・パッカード、ダイエーの社長を歴任し、現在は日本マイクロソフトの社長を務める樋口泰行さんという方の著書である。これだけ多くの大企業のトップを歴任しておきながら、まだ51歳である。本書のタイトルは、まさにご自身が「愚直」な歩みをしてこられたことをアピールしているような感じだが、本当にそうなのかという興味を抱いて読み始めた。
最初の勤務先での松下電器・溶接事業部での苛烈な業務、ハーバードでのMBA取得に至る苦闘、BCGで過労で勤務中に卒倒した話などなど、ふつうの人ならここまでやらないというエピソードが目白押し。樋口さんは、どこかのインタビューで、自分の苦労は苦労のうちに入らないと言っていたが、やはりかなりの苦労であるように思う。
そして、読み終わっての感想は、こうした苦難から逃げず、それにひたすら「愚直」に取り組んで乗り越えてきたという点が、本書のエッセンスなのだと感じだ。かいつまんで言えば、ビジネス上の知識やテクニックも必要だが、それよりも大切なのは、目の前のことから逃げずに、愚直に取り組むことだということだろうか。
こう書くと、誰でもこうした方法論を実践できそうだが、現実は厳しい。多くの場合、気がつけば嫌なことからは身をかわし、できるだけ悪いことが起きないよう祈りながら、日々の仕事をこなすので精一杯というのが現実なのではないだろうか(私を含め)。
また、苦難から逃げず、それに愚直に取り組むのは、一時的に可能かもしれないが、長期的に凄まじい圧力にさらされれば、多くの場合、体を壊したり、精神的に磨耗して、戦線離脱ということもあるだろう。愚直に努力することは貴いが、それができなくなるほど心や体が摩滅してしまうということは、誰にとっても起き得ることではないだろうか。
そういう意味で、著者のキャリアの歩みは簡単に真似できるものではないことを知ると同時に、「目の前のことから逃げない」ことが大切だということを、改めて思わされた貴重な一冊でした。