G7は重要性を失い、G20は機能していない。リーダー不在の世界で、日本は勝ち残れるのか? かつて有力だったG7は、新興国を含むG20へとシフトした。しかしG20は、実際の組織というより、むしろ「理念」のようなものでしかない。「Gゼロ」という言葉の生みの親が、今後のシナリオを予測する。
(カバー解説から部分引用)
著者は新進気鋭の国際政治学者、イアン・ブレマー氏。学者ではあるが、大学の教授とかではなく、自ら政策シンクタンクを創設、主宰している実務家である。
米国の覇権が危ういという議論は、実は冷戦終結後、間もなくの20年前ころからあって、米国は世界の警察官を辞めたがっているとか、世界の経済的繁栄と安全保障を主導していく負担を他の同盟国にも強引に分担させようとしているという議論は無数にあった。
しかし、本書ほど、こうした動向を緻密に追った論考は、今までなかったかもしれない。
読み終えると、たしかにG7、G20も機能しなくなっているし、ましてや国連の影響力などは限定的なものだから、今後は覇権国が存在しない世界が到来するのではないかという気がしてくる。
しかし、現実をよく見ると、米国という国は、実にしたたかに、あらゆる手段を使って自国の理念と国益を世界各地で推進し、経済、安全保障などの枢要な分野で、いまも一定の成果を収めていることが分かる。
たとえば、TPP交渉はまだ正式な妥結に至っていないけれども、米国が主導していなければとっくに空中分解していただろうし、そのしたたかな交渉姿勢には、自国の経済覇権を、地域大国を排除しつつ、アジア太平洋地域で絶対に維持拡大させるのだという執念のようなものを感じさせる。
また、安全保障分野でも、最近では懸案だったイランとの核開発交渉を妥結に持って行くなど、肝心なところはきっちり押さえている。もし、この問題が妥結しなければ、IS対策などにも大きな悪影響が及ぶところだったが、やるべきことは怠りなくやっている。
こうした現状を見ると、G7、G20などの既存の枠組みの機能不全は否定できないのだが、そうした既存の枠組みにこだわらず、状況に応じて枠組みを新設して、政策を推進するやり方に方針転換しただけで、米国の覇権には何ら影がさしていないようにも思える。
たしかに、中国にはAIIBの創設を許したり、ロシアには近隣国への侵略を許してしまったことはある。そういう意味では相対的な力は落ちており、大国間の格差は縮まっているのかもしれない。
しかし、肝心なところは形式にとらわれず必要な政策を頑として執行している姿を見ると、やはり米国中心のG1の世界秩序には一定の普遍性があると考えるのは、ブレマー氏の論考を前にすれば無理があるだろうか。