牧野 武文
毎日コミュニケーションズ
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グーグルに関する一番新しい本(今の時点で、たぶん)。世間の書評もおおむね好評で、確かによく調べて書かれている。とくに、創業者の二人が描く巨大な構想については、驚く人も多いだろう。
グーグルは、先進国だけでなく、開発途上国を含めた全世界へ検索市場を拡大するために、クロームOSやアンドロイドのようなOSを無償提供し、さらに無線LANの世界普及も視野に入れているという。
もしこの動きが本格化すると、途上国の多くの人々に経済的機会がひらけ、言論の自由が加速して民主化のうねりも止められなくなっていくだろう。筆者も触れている通り、こうした世界的なテクノロジーの波及を狙う背景には、創業者二人がロシアという独裁的な準途上国の出身者で、いろいろと苦労をしたという事情があるようだ。
しかし、本書の最後の方のグーグルが及ぼす悪影響(グローバリゼーションの負の側面の拡大)や、陰謀論的なお話は、書き急いだせいか、展開されるロジックに疑問を感じる箇所もある。
もしグーグルが、世界の情報を自社の利益のためだけに悪用するような「邪悪」な存在に変節したとしたら、その時点でグーグルの検索や広告から一気に人が離れ、あっという間にグーグルは市場から放逐されてしまうだろう。だから、グーグルの経営陣が、そういう自滅的な変節に傾く可能性は低いのではないだろうか。
ただし、グーグルが邪悪になる可能性が低くても、かつてのITの王者、マイクロソフトのように、その相対的存在が小さくなって弱体化する可能性はあるだろう。たとえば、グーグルよりも進んだ技術力を持ち、かつグーグルよりも巨大な構想を持った個人や企業が出現したとしたら、あっという間にグーグルが市場から消えてしまうこともあると思う。