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通貨で読み解く世界経済  小林 正宏, 中林 伸一

通貨で読み解く世界経済―ドル、ユーロ、人民元、そして円 (中公新書)
小林 正宏 中林 伸一
中央公論新社
売り上げランキング: 2826


最近、クオリティの高い新書に出会うことが多い。本書も、そんな一冊。円安傾向は一服した感があるが、先般のG20の頃から、通貨戦争とか通貨安競争など、通貨切り下げ競争について新聞が取り上げることが多くなり、本質を理解したいと思って、数回の立ち読みの後、購入した。

マクロ経済をしっかり理解している人にとっては何てことないレベルだと思うが、少々理解の浅い自分にとっては良い頭の体操になった。副題にあるように、ドル、ユーロ、中国元、日本円を取り巻く関係国の経済状況と、外国為替市場の相互作用について、最新のトピックも含めて懇切丁寧に解説してくれている。

外為レートの影響を強く受ける企業に勤めている人、FXのファンダメンタルズ分析をしっかり理解したい人など、多くの人が本書の恩恵を受けることと思う。難解なトピックを、可能なかぎり分かりやすく、同時に正確に解説しようという著者の真摯な姿勢がうかがわれます。

 

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日銀を知れば経済がわかる 池上彰

日銀を知れば経済がわかる (平凡社新書 464)
池上 彰
平凡社
売り上げランキング: 4752


とにかく、この人の話は分かりやすい。むかしNHKの「週間子ども新聞」に出ていたころは、結構頻繁に見ていたし、いくつか本も買った。とにかく、抽象的な話を、手触り感のある分かり易い話に転換する技術は神業。

本書は、日銀の機能を説明することによって、経済のしくみを解説することを試みている。日銀というのは、抽象的な存在ではあるが、日銀の金融政策の実行方法、日銀総裁の職務内容なんかを具体的に説明することによって、日銀の役割が分かり、経済のしくみがちょっと分かる。

ここで、「ちょっと」分かると書いたのは、ちょっとしか分からないという意味ではなく、これだけ薄い新書で、ちょっと分かるほどのはすごいという意味。もし、経済をちゃんと理解したければ、やはり一定の厚さの経済学のテキストを数冊通読する手間を省くことはできない。

今後も、この人の本は、折に触れて読んでいきたい。難しいテーマの話をじっくり咀嚼するのに役立つ。また、難しい話を易しく言い換える上での勉強にもなる。

 

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ルワンダ中央銀行総裁日記   服部正也

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)
服部 正也
中央公論新社
売り上げランキング: 41271


本書は1972年に初めて出版され、その後しばらく絶版状態になり、中古市場でプレミアム価格で流通していたが、昨年末になって急に再版されたという「いわくつき」の本である。こういう硬派の本で、しかも途上国をテーマにした作品で、こういう経過を辿る本は珍しいのではないか。実際、読んでみて、プレミアムが付くのは当然と思った。大変面白い本である。

まず、あまり途上国とかにあまり興味がない人でも、海外に興味がある人なら、とても楽しめるという意味で、とても面白い本だ。題名はいかめしいし、ちょっと昔の本だから語り口は硬い。でも、あまり深く考えずに読んでも、筆者の筆力なのか、読んでいてたちまち引き込まれる。

また、筆者はもともと日銀マンで、IMFや世銀にも出向した国際金融のプロ中のプロだから、経済や金融に興味のある人にとっても、とても面白い本だろう。ところどころに、マクロ経済や経済政策に関する実践的なナマの分析が出てきて、これもまた引き込まれる。

さらに、当然途上国問題に興味のある人にとっては、夢中になって読める本であることは間違いない。筆者はエコノミストであるだけに、途上国や、そこに住む人々に対する妙な感傷がない。しかし、人間を、人種や民族、経済状況などで分け隔てすることなく、目の前にいる人を等身大で捉えるフェアな観察眼がある。そして、その徹底した公正さの中に、ルワンダの人々に対する深い愛情があることが、こちらにひしひしと伝わってくるのである。

著者は、独立後間もないルワンダで中央銀行総裁の要職を6年間務め、当時の大変な政治的混乱、経済的貧困の中で、経済政策の立案と執行に辣腕を振るった。そして、この任務を通して、大統領や財務大臣をはじめとする国の指導者、ルワンダ駐在の外国企業や外国商人、ルワンダの商人や農民を相手に、無数の対話と意見交換を重ねてきた。当然、そこから引き出される筆者のルワンダ社会の分析、また途上国社会の分析は、素人目から見てもすこぶる切れ味が良い。

1994年の大虐殺についても、今回の改訂で筆者の補論が付いた。これに対しては、最近の出来事でもあるので、さまざまな書評がネット上にも載っているが、私は個人的に、一般の見方と違ったこういうユニークな分析があってもいいのではないかと思う。

94年の事件に対する大方の見解は、加害者の残虐性を非難する主旨のものが多いが、著者は、長い歴史の中で、ルワンダでは双方の民族が互いに虐殺しあってきた経緯があり、双方ともにそれなりの非があるという大局的な見方をしている。現場を良く知る人は、こういう大局的な見方をすることが多く、一方だけを批判したり、支持することが少ない。筆者の見方も、そういう現場を直接見た人に独特の落ち着いた趣が感じられる。

いずれにしろ、本書は960円なのだが、それ以上の価値があることは疑いない。プレミアムが付いていたのは当然と思わされる濃い内容である。

 

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みんなの意見は案外正しい  ジェームズ・スロウィッキー

「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)
ジェームズ・スロウィッキー
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 40958


題名に惹かれて衝動買い。期待通りの内容で満足。本書は、専門知識や豊富な経験を持った一握りのエリートの意見よりも、大衆や大きな集団が導き出す意見の方が案外正しいことが多いということを、さまざまな具体例、アカデミックな議論を引いて論じている。

大勢の人たちが、ひとつの意見を導き出すとき、そこには市場原理が働くことが多い。どんな有力な人の意見でも、そこに妥当な根拠がなければ退けられる。

逆に、何の力もない人の意見でも、意見自体に妥当性があれば注目される。そういうフルイにかけられるプロセスの中で、意見が最も妥当性のあるものに収斂されていく。だから、「みんなの意見は案外正しい」ということだ。

本書も指摘していることだが、、「みんなの意見は案外正しい」ためには、いくつか条件がある。それは、そこにキチンと市場原理が働くということだ。すべての人の意見が公平に検証されるということ、最終的に一つの意見に収斂される仕組みがあるということなど、具体的要件が挙げられている。

あと、本書では突っ込んで論じられていなかったように思うが、「みんな」というのは、最低でも20人くらいの人数が必要だということも要件として求められるだろう。4-5人では、有力者の意見になびく可能性があるから・・・。

本書の中で特に印象に残ったのは、スペースシャトルのコロンビア号のケーススタディだ。組織の上下関係の中で、事故が起きるという意見があっさり無視された過程はあまり悲しい。やはり「みんなの意見」が形成される仕組みがないと、組織がおかしい方向へ行くという典型例と言えるだろう、

以前に、チャレンジャー号のケーススタディに触れたときもショックを受けたが、やはり「みんなの意見」を収斂する仕組みのない組織は失敗を繰り返す。今のNASAがどうなっているか、具体的に分からないが反面教師の一つといえるだろう。

 

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アダム・スミス-『道徳感情論』と『国富論』の世界  堂目卓生

アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)
堂目 卓生
中央公論新社
売り上げランキング: 4860


本書は、アダム・スミスの代表作『国富論』と、あまり有名でない『道徳感情論』の二つの著作の意味合い、文脈をブリッジすることを試み、それによってアダム・スミスの人間観、市場観、国家観を鮮やかに描き出すことを主題にしている。

ちなみに、私は両方とも原書を読んでいない。しかし、本書の著者が言いたいことは、ほぼ理解できたように思う。これも、筆者の力量によるものだ。テーマは難解だが、説明の仕方が分かりやすい。

一方、本書で紹介されているスミスの人間観については、やや意外な感じがして驚いた。本書では、スミスは、人間は他人に「同感」する性質を持っており、自分にしてほしいと思うことを他人にしてあげ、自分にしてほしくないことは他人にもしない傾向を持っており、これが社会秩序を形成し、ひいては市場を通じて秩序だった経済発展が達成される、ということを言っている。

従来の類書で展開されるスミスの世界観というのは、人間は利己的な存在である、しかしその利己的な欲求も市場の交換機能というフィルターを通すと、自分の欲求を追求することによって(たとえば金儲け)、他人の欲求を充足する(たとえばサービスの供与)ことが可能となり、すべての人間が自分のことしか考えていないのに、社会全体の経済発展が達成される、というものだったような気がする。― この点において、本書は新しい視点を提供している。

他方、純粋に面白く読み進んだ箇所は、後半の『国富論』の歴史的背景。スミスが『国富論』の執筆を進めていた時期は、アメリカ独立戦争とフランス革命がそれぞれ同時進行していた時期と重なる。そんな背景から、本書は、『国富論』がアメリカ独立戦争に関する英国政府への政策提言としての側面を持っていたことを裏付けている。

この節では、英国が米植民地を抱え込んだ場合と、分離独立させた場合の英国社会に対する経済効果のシュミレーションなども紹介されており、とても面白い。スミスが経済理論に関心を持っていたから経済学者となったというよりも、人間と社会に関心を持っていたから経済学者になったのだという想像力も膨らむ。

 

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