入門経済学 第4版  伊藤元重

 

入門経済学 第4版
入門経済学 第4版

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伊藤元重
日本評論社
売り上げランキング: 32,923

 

要旨
ミクロ経済学、マクロ経済学、国際経済学の基礎をバランスよくカバー。経済学の入門書として、ロングセラーにして、ベストセラーのひとつ。

感想
ミクロ経済学、マクロ経済学、国際経済学の基礎が俯瞰できる。初学者にとって、易しすぎず、難しすぎず、難易度という意味で絶妙なバランス。もう4回くらい通読したと思うが、今でもときどき本棚から出して読み返す。私にとって、経済学理解の基礎を築いてくれたかけがえのない本です。

 

 

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ウォール街のランダム・ウォーカー  バートン・マルキール

 

ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理
バートン・マルキール
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 5,092

 

要旨
アクティブ運用(個別株投資)は、パッシブ運用(インデックス投信)に勝てない。テクニカル、ファンダメンタルズなど手法の次元を超えて、パッシブ運用には勝てない。それは市場の動きを読むことがもともと不可能で、ここをクリアできる再現性のある手法が存在しないこと、またアクティブ運用はパッシブ運用よりも売買手数料がかさむので、理論的にも、実践的にも絶対に勝てないことを論証。

感想
評価が大きく分かれる古典。とくに、アクティブ運用がパッシブ運用に勝てない点を論証しつつ、自身のアクティブ運用の手法を展開している点が致命的だと指摘されることが多いようだ。しかし、これまで11版を重ねた古典でもあり、そのへんの投資本とは格が違うことは確か。大部なので、もう一度読み返して、ポイントをしっかり咀嚼したい。

 

 

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知的生産の技術  梅棹 忠夫

 

知的生産の技術 (岩波新書)
梅棹 忠夫
岩波書店
売り上げランキング: 3,444

 

要旨
いろいろな知恵や情報に触れ、それを糧に新たな知的生産物をどのように作るかという、その方法・技術について述べている。情報やそれに関する所感をカードに書き込み、それを自由に組み合わせることで、新たな知的生産物を作る方法論が展開されている。レオナルド・ダ・ビンチが、身の回りに起きることを、いちいち全て日記に書く習慣があり、それがダ・ビンチの知的生産活動の基礎になっていたエピソードも紹介。

感想
IT化などが想定されていなかった時代に書かれた古典。カード式の方法は、今ならEvernoteを使って、かなり同じような形で再現できるのではないかと思った。ダ・ビンチのメモの習慣も大変参考になった。人間は、おもしろい思いつきをしても、それを驚くほど簡単に忘れてしまう。何を忘れたかも忘れてしまうから、その損失は計り知れない。少し経ったらもう一度読み返したい。

 

 

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イエレンのFRB 世界同時緩和の次を読む 藤井彰夫

 

イエレンのFRB 世界同時緩和の次を読む
藤井 彰夫
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 221,770

本書は、ジャネット・イエレンがFRB議長に就任することが確定した時期に出版された本だから、あえてこういう表題で発売されようだが、内容的には歴代のFRB議長、さらに欧州、日本の中央銀行総裁や、金融政策の歴史的変遷なども幅広く扱っている。

また、経済学の本ではなく、経済事情の本だから、数式やチャートに疎くても、容易に内容を咀嚼できる非常に読みやすい構成になっている。

中央銀行総裁というと、近寄りがたいコワモテのイメージがあるが、本書を読み、ジャネット・イエレンの人となりを知ると、非常に温かみのある、人間的な人物像が浮かび上がってくる。

もともとニューヨーク、ブルックリンの下町育ちで、周囲には貧困、失業などの経済問題が転がっており、こうした問題を本で学ぶだけでなく、直接見聞して育ったからなのかもしれない。

だから、今も昔も雇用問題に非常に関心が高く、失業や雇用の統計の取り方についても、表面的でなく、できるだけ実態を正確にあぶり出すようなあえて精密な方法を好んで使ったり、経済政策へのアプローチが抽象的でなく、人間中心に考えているところが特徴的である。

経済政策の中でも、とくに金融政策というのは非常に抽象度が高く、数式とグラフだけで議論が行われているイメージがあるが、イエレンは数式をいじると同時に、経済状態が人間に与える影響といった要素を起点に、金融政策の全体的バランスを常に考えているようである。

たとえば、イエレンは失業問題が人の日常生活、ひいては人生全般、その家族にまで広く波及する影響を、非常に正確かつリアルに把握しており、失業率という数値ではなく、失業が人間に与える害悪を中心に置いて、インフレ率なども勘案しながら、最適な金融政策を考えているような節がある。

そういう意味で、フォーマルな金融政策の議論の場では、ほかの専門家と全く同じ土俵で議論しているのだが、良い意味で、その動機と出発点が他の専門家と違う印象を持った。

12月15-16日には、米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、そこで約7年ぶりにゼロ金利政策を解除して、利上げに踏み切るかどうかが注目を集めている。

あと2週間あり、その間には米国の雇用統計の発表もあるし、ロシアとトルコの間の地政学的ファクターもどう転ぶか分からず、不確定要素はあるが、エコノミストの9割は利上げ濃厚と判断している。

イエレンは、9月に利上げが確実視されるなか、FOMC直前に起きた中国市場発の世界同時株安を受けて、ギリギリのタイミングで利上げを見送るなど、かなり絶妙の判断を下してきた。

通常、FRBは米国経済の状態だけを見て金融政策を決定するが、このときは世界経済への波及効果を考えて利上げを見送り、特殊な判断基準を適用したとも言われたが、今となればこれは賛辞としか思えない。

おそらく今回も、周囲の雑音を遮断して、米国経済、世界経済、マーケットの思惑を睨みながら、FOMC開催時点で最善の決断を下すのではないかと思われるが、9月の時よりも利上げ環境が整っているので、周囲の注目度や評価のハードルは、9月の時より上がっている。

 

 

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「Gゼロ」後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか    イアン・ブレマー

 

G7は重要性を失い、G20は機能していない。リーダー不在の世界で、日本は勝ち残れるのか? かつて有力だったG7は、新興国を含むG20へとシフトした。しかしG20は、実際の組織というより、むしろ「理念」のようなものでしかない。「Gゼロ」という言葉の生みの親が、今後のシナリオを予測する。
(カバー解説から部分引用)

 

著者は新進気鋭の国際政治学者、イアン・ブレマー氏。学者ではあるが、大学の教授とかではなく、自ら政策シンクタンクを創設、主宰している実務家である。

米国の覇権が危ういという議論は、実は冷戦終結後、間もなくの20年前ころからあって、米国は世界の警察官を辞めたがっているとか、世界の経済的繁栄と安全保障を主導していく負担を他の同盟国にも強引に分担させようとしているという議論は無数にあった。

しかし、本書ほど、こうした動向を緻密に追った論考は、今までなかったかもしれない。

読み終えると、たしかにG7、G20も機能しなくなっているし、ましてや国連の影響力などは限定的なものだから、今後は覇権国が存在しない世界が到来するのではないかという気がしてくる。

しかし、現実をよく見ると、米国という国は、実にしたたかに、あらゆる手段を使って自国の理念と国益を世界各地で推進し、経済、安全保障などの枢要な分野で、いまも一定の成果を収めていることが分かる。

たとえば、TPP交渉はまだ正式な妥結に至っていないけれども、米国が主導していなければとっくに空中分解していただろうし、そのしたたかな交渉姿勢には、自国の経済覇権を、地域大国を排除しつつ、アジア太平洋地域で絶対に維持拡大させるのだという執念のようなものを感じさせる。

また、安全保障分野でも、最近では懸案だったイランとの核開発交渉を妥結に持って行くなど、肝心なところはきっちり押さえている。もし、この問題が妥結しなければ、IS対策などにも大きな悪影響が及ぶところだったが、やるべきことは怠りなくやっている。

こうした現状を見ると、G7、G20などの既存の枠組みの機能不全は否定できないのだが、そうした既存の枠組みにこだわらず、状況に応じて枠組みを新設して、政策を推進するやり方に方針転換しただけで、米国の覇権には何ら影がさしていないようにも思える。

たしかに、中国にはAIIBの創設を許したり、ロシアには近隣国への侵略を許してしまったことはある。そういう意味では相対的な力は落ちており、大国間の格差は縮まっているのかもしれない。

しかし、肝心なところは形式にとらわれず必要な政策を頑として執行している姿を見ると、やはり米国中心のG1の世界秩序には一定の普遍性があると考えるのは、ブレマー氏の論考を前にすれば無理があるだろうか。

 

 

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