イエレンのFRB 世界同時緩和の次を読む 藤井彰夫

 

イエレンのFRB 世界同時緩和の次を読む
藤井 彰夫
日本経済新聞出版社
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本書は、ジャネット・イエレンがFRB議長に就任することが確定した時期に出版された本だから、あえてこういう表題で発売されようだが、内容的には歴代のFRB議長、さらに欧州、日本の中央銀行総裁や、金融政策の歴史的変遷なども幅広く扱っている。

また、経済学の本ではなく、経済事情の本だから、数式やチャートに疎くても、容易に内容を咀嚼できる非常に読みやすい構成になっている。

中央銀行総裁というと、近寄りがたいコワモテのイメージがあるが、本書を読み、ジャネット・イエレンの人となりを知ると、非常に温かみのある、人間的な人物像が浮かび上がってくる。

もともとニューヨーク、ブルックリンの下町育ちで、周囲には貧困、失業などの経済問題が転がっており、こうした問題を本で学ぶだけでなく、直接見聞して育ったからなのかもしれない。

だから、今も昔も雇用問題に非常に関心が高く、失業や雇用の統計の取り方についても、表面的でなく、できるだけ実態を正確にあぶり出すようなあえて精密な方法を好んで使ったり、経済政策へのアプローチが抽象的でなく、人間中心に考えているところが特徴的である。

経済政策の中でも、とくに金融政策というのは非常に抽象度が高く、数式とグラフだけで議論が行われているイメージがあるが、イエレンは数式をいじると同時に、経済状態が人間に与える影響といった要素を起点に、金融政策の全体的バランスを常に考えているようである。

たとえば、イエレンは失業問題が人の日常生活、ひいては人生全般、その家族にまで広く波及する影響を、非常に正確かつリアルに把握しており、失業率という数値ではなく、失業が人間に与える害悪を中心に置いて、インフレ率なども勘案しながら、最適な金融政策を考えているような節がある。

そういう意味で、フォーマルな金融政策の議論の場では、ほかの専門家と全く同じ土俵で議論しているのだが、良い意味で、その動機と出発点が他の専門家と違う印象を持った。

12月15-16日には、米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、そこで約7年ぶりにゼロ金利政策を解除して、利上げに踏み切るかどうかが注目を集めている。

あと2週間あり、その間には米国の雇用統計の発表もあるし、ロシアとトルコの間の地政学的ファクターもどう転ぶか分からず、不確定要素はあるが、エコノミストの9割は利上げ濃厚と判断している。

イエレンは、9月に利上げが確実視されるなか、FOMC直前に起きた中国市場発の世界同時株安を受けて、ギリギリのタイミングで利上げを見送るなど、かなり絶妙の判断を下してきた。

通常、FRBは米国経済の状態だけを見て金融政策を決定するが、このときは世界経済への波及効果を考えて利上げを見送り、特殊な判断基準を適用したとも言われたが、今となればこれは賛辞としか思えない。

おそらく今回も、周囲の雑音を遮断して、米国経済、世界経済、マーケットの思惑を睨みながら、FOMC開催時点で最善の決断を下すのではないかと思われるが、9月の時よりも利上げ環境が整っているので、周囲の注目度や評価のハードルは、9月の時より上がっている。

 

 

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