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小村寿太郎 – 近代日本外交の体現者  片山慶隆

小村寿太郎 - 近代日本外交の体現者 (中公新書)
片山 慶隆
中央公論新社
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小村寿太郎といえば、日英同盟を成立させた外務大臣として世界史の授業でも教わる。また、「ねずみ公使」という小さな体躯とチョビ髭の風貌を揶揄したあだ名も有名だ。

前回取り上げた広田弘毅に続き、近代から現代にかけての日本の外交に影響を与えた政治家、外交官について改めて学びたくなり、本書を手にとった。

本書を読んで、小村寿太郎のイメージが大きく変わったのは、「ねずみ公使」という「草食系」の風貌からは想像がつかないほどの「肉食的」な帝国主義的な政策を次々と推進したという事実。

小村の外交官人生、政治家人生には、常に日本の背後に控える大国、ロシアの影が付きまとった。小村は、日清戦争後の下関条約前後の対露交渉を行い、ロシアを孤立させるために日英同盟を結んだ。日露戦争の直前には、戦争を避ける外交努力を尽くしながらも、国益に従って開戦を容認、ポーツマス条約には全権大使として対露交渉の最前線に立った。

その間、韓国併合、日本の大陸進出においても大きな役割を果たしたが、軍人の言いなりになるのではなく、むしろ時には軍人に暴力を振るわれながらも、自身の政策に絶対に妥協しない気骨も見せる。

読み終わった後、「ねずみ公使」というあだ名が体現する小柄な体躯、弱気な風貌と、日本の帝国主義化を推進した中心人物の一人という強烈なコントラストを否応なく感じた。青年期には、日本が不平等条約で苦しむ不条理を味わっていたから、帝国主義的な政策に傾倒した理由はわからなくもないが、それだけでは説明がつかない強烈な執念とエネルギーを感じた。

極東の一国だった日本が、30-40年のうちに「列強」と呼ばれる当時の先進国の仲間入りを果たした背後には小村がいた。もちろん、その間には無数の市民の血が流れたから、歴史上の評価は未だに難しい。ただ、その影響力の大きさを、本書を読んでより具体的に知ることができた。
 

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ロシアの論理―復活した大国は何を目指すか   武田善憲

ロシアの論理―復活した大国は何を目指すか (中公新書)
武田 善憲
中央公論新社
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本書は、とかく複雑怪奇に描写されがちなクレムリンの政策決定プロセスを、きわめてビジネスライクなアプローチで分かりやすく解説している。

大げさな表現もないし、こびを売るような余計な謙遜もない。事実と類推をはっきり分けて書き、どんなに調べても分からないことについては、はっきりその旨断り書きをしている。こういう明晰な文章の書き方は、ただアカデミックな訓練を積んだだけでは難しく、筆者の職業(外務省勤務)によるところが大きいようにも見受ける。

本書は表題通り、外側からは分かりにくいロシアの安全保障政策、経済社会政策を動かしている行動原理ともいえる「ロシアの論理」とは何か解き明かしている。

本書によると、そのポイントは、安全保障上の脅威は執拗に攻撃・排除する、経済界の政治への干渉を絶対に許さない、政府内部にも国民にも法令遵守を徹底的に要求する、経済活動のうち戦略的物資(エネルギーなど)については政府がコントロールする(ロシア財界にも外資にもコントロールさせない)といったところ。

また、この「ロシアの論理」を敷衍する傍論として本書が紹介している諸点のうち、とくに印象に残ったのは、現代のロシアが、安全保障の枢要を押さえるプーチンと、経済社会政策を取り仕切るメドベージェフの二人によって強力に牽引されているということ、

この二人は過去のロシアやソ連のリーダーと違い、西側諸国のリーダーも持つ合理性を重んじる価値観を共有していること、また同時にこの二人は、チェチェン政策やユコス事件などにも見られるように、ロシア政府に対する脅威を排除することにおいては一瞬の躊躇もないほど冷徹で果断な行動力を持っていること、などなどである。

アメリカやEU関係国、日本などの政策プロセスを詳述した良書は多いが、ロシアに関しては、専門書を除いて一般書の中で、そのような文献は、これまであまりなかったような気がする。そういう意味で、本書はそんな間隙を埋める良書である。

一番最後で、日本の北方領土問題に対する公式見解を確認し、外務大臣をヨイショしているところはご愛嬌だが、これもまた筆者が自分の立場(外務書の若手官僚)をわきまえた常識人であることの裏付けとなっており、本書の他の部分の客観的事実に関する記述の正確さを印象づける効果を生んでいる。

 

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