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国際連盟   篠原初枝

国際連盟 (中公新書)

国際連盟 (中公新書)

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篠原 初枝
中央公論新社
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国際「連合」について書かれた本は、無数にある。しかし、国際「連盟」について書かれた本は、非常に少ない。そういう意味で貴重な一冊。

しかも、創設から消滅までの歴史を丹念に追い、国際連盟内部の事務局や関連機関の活動、外部を取り巻く多国間外交を丁寧に論じている。つまり、新書という形式でありながら、国際連盟についてほぼすべての論点を網羅している。

国際連盟は、世界初の大国間の総力戦となった第一次大戦の収拾と、戦後体制(ベルサイユ体制)の維持のために創設された。しかし、時間の経過と共に、創設当初の意義は各国間で忘却され、櫛の歯が欠けるように組織の強度が失われ、ついに瓦解した。この国際連盟崩壊の過程には、日本も大きな役割を果たしたことを忘れてはならないだろう。

一方、国際連盟の維持と発展には、新渡戸稲造をはじめ、多くの日本人が実質的な貢献したことも、本書では詳しく触れられている。いまから100年近くも前に、国際経験の乏しい日本から多くの逸材が、事務局の内部へ、もしくは外部の代表団へ送り込まれ、英語やフランス語を巧みに駆使しながら、他の列強諸国と渡り合った事実には感動を覚える。

それだけに、国際連盟の瓦解のプロセスには悲しみと怒りを禁じえない。現在の国際「連合」も、国際連盟と同じくらい地味な存在だが、無政府状態の性質を持っている国際社会の中で、こうした常設の多国間外交の仕組みが制度化されている意義は大きい。

そういう意味で、派手な活躍はないが、各国間の摩擦を吸収する安全弁のような役割や、各国間の利害を調整する調整弁のような役割を、休みなく、間断なく果たしている意義は大きい。本書を読んで、この限り無く地味な機関を、ないがしろにしてはいけないと改めて感じた。

 

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国連の政治力学―日本はどこにいるのか  北岡伸一

国連の政治力学―日本はどこにいるのか (中公新書)
北岡 伸一
中央公論新社
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しばらく前に、民間人の方の外交官体験記を取り上げた。本作も、本職が大学教授の著者が、日本政府の国連代表部の大使を務めた外交官体験記である。

本作を読むと、いかに著者が国連におけるマルチ(多国間)外交を楽しんだかということが、とてもよく分かる。理論を長年研究してきた学者が、それに関連する実務に直接触れた喜びのようなものが伝わってくる。

著者が国連の大使を勤めた期間は、日本が安保理の常任理事国に入る運動がピークを迎えて時期とも重なっており、その舞台裏が克明に記録されている。また、北朝鮮のミサイルが発射され、国連安保理で非難決議が出たときも、著者はその決議の策定作業に直接関わった。

こうした箇所を読むと、日本政府がどのように他国と協調・牽制し合いながら、外交政策を編み上げていったということが、とてもよく分かる。また、こうした実務面の詳細のみならず、著者の本職は学者だから、様々な外交政策の背景にある日本政府の歴史観などもそれとなく披瀝されており、興味深い。

 

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日本と国連の50年―オーラルヒストリー  明石康ほか編著

日本と国連の50年―オーラルヒストリー
明石 康 野村 彰男 大芝 亮 秋山 信将 高須 幸雄
ミネルヴァ書房
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わりと地味な本だが、中身を読んで驚いた。90年代からつい最近までの国連外交の一線でリーダーシップを取ってこられた方たちのナマの声が詰まっている。明石康さん、緒方貞子さん、高須幸雄さん、小和田恒さんなど、それぞれ国連の中から(国連事務局の立場から)、国連の外から(日本政府の立場から)、近年の国連外交を仕切ってこられた方々が、貴重な本音を語っておられる。

普通の会社でも、立場や意見の違う個人、組織の考えを統合し、具体的な事業にとりまとめていくのは大変なことだ。国連では、192カ国の言語や価値観、利害が全く異なる国々の政府が、それぞれの国民の生命と財産を賭けて、紛争解決や貧困の根絶のために交渉に臨んでいる。

当然、その一線に立って政策を練り上げていこうとすれば、凄まじい「サンドバッグ」状態になる。本書は、そういう立場に身を置かれた上述のような方々が、率直な本音を語っておられる。

本書は、国連外交の中枢におられ、それに長く直接関与してきた方たちが、自らの体験を語っておられる。そういう意味で、外から国連外交を語った類書とは本質的にクオリティーが違う。一般に関心のある人だけでなく、論文とかを書いている人にとっても、大変貴重な資料になるのではないかと思います。

 

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